他人を罵倒する父、一体なぜ?

始まり 

一昨年帰省した際、70代の父の発言が気になった。

父はゴルフが趣味で週に2-3回練習場に行っている。その話をしていた時、突然トーンが変わり、「練習場に行っても爺さん婆さんばっかりだ!ほんとに暇な奴らだ!」と怒りのこもった吐き捨てるような口調で言うのだ。

突然の父の刺すような発言に、思わずドキリとして返す言葉が出てこなかった。その側で「爺さん爺さんってあなたもそうじゃない。」と呆れ顔で言う母。

その後、私の帰省中に、2-3度ほど父が他人を罵倒する発言をすることがあった。なんでそんな言い方をするのか?理解できずに心に引っかかってなんとなくすっきりしないまま、私の帰省は終了し実家を離れていくのだった。


怒れる父

そして昨年末、帰省した私は父と母を温泉宿に連れて行った。

宿をチェックアウトして、近くの店でランチをした。その時、なんでそんな話になったのか覚えていないのだが、父の地元のゴルフ仲間達のLINEグループの話になった。

突然父が尖った口調になる。「いつもどうでもいいことばっかり送ってくる奴らだ!よっぽど暇なんだろうな!こんなことしかやることがないんだろうな!本当につまらないことばかり送って!」

絶句している私と母をよそに、どうにも怒りが収まらないという感じで父がつらつらと自分の友人たちを罵倒する。

「そんなに迷惑ならグループ抜ければいいんじゃないの?」何を言っていいか分からずやっと私が返した言葉がそれだった。

急に父がおとなしくなり、「そこまでじゃないけど…」と呟いた。

なんでそんなこと言うんだろう?言動の全てを理解できなくても、自分の友達ならそんな言い方はないんじゃないか?私はそんな父に対して、若干の苛立ちさえ感じ始めていた。


父の想い

ランチの店を出て自宅へ車を走らせる。その道すがら、狭い道路に差し掛かった。年配の男性が一人、ゆっくりと道の脇を歩いていく。それを避けながら通り過ぎようとしたその時、父が口を開いた。

「全くヨボヨボ爺さんが。見てごらん、あんなボテボテ歩いて。」強い口調で見ず知らずの男性を罵倒する父。

これまでの父の暴言が一気に頭に蘇ってきて、なんだか腹が立ってきた。なんでそんなに人のことを悪く言うのか?こっちまで嫌な気分になる!これまで何も言わずにきたが、私はもう耐えられなかった。

「そういうのやめなよ!他人を悪く言うのってよくないよ!

思わず私も声が大きくなり、言い方がキツくなってしまったかもとハッとした。

急に父がおとなしくなり、ボソリと言った。

「もしかして自分がああなるかもと思うと怖い。」


老いる恐怖

グサリと胸に何かが刺さるような、そんな感覚だった。父は今まさに自分が直面している逃れようのない"老い"を恐れていたのだ。

誰にでも訪れる"老い"。自分で思うように体が動かせなくなり、トイレに行くのも人の手を借りなければならなくなるかもしれない。認知症で家族のことさえ忘れてしまうかもしれない。それが現実として自分自身に迫ってきた時、どう思うだろうか?

とんでもなく怖いことは想像に足る。しかも、健康にどれだけ気を使っていたとしても病気になる時はなるわけだし完全に避けて通ると言うことはできないのだ。

全く理解できなかった他人を罵倒するという父の行動の原因が垣間見えたことで、心の霧が少し晴れたような気分になった。それでも、暴言を吐くという行為を気持ちよく受け入れることはできない。できるならば、父には不安に苛まれる老後ではなく楽しい老後を送ってほしい。

どうすればいいのか?これだ!という答えはすぐには出てこない。だが、父の気持ちを知ったのは大きな一歩だったと感じている。

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